皆さん、「REALFORCE」(リアルフォース)という名前のキーボードをご存知ですか?

REALFORCEは高級キーボードの代表的な存在です。キーボードを購入するときに「せっかくだから良いものを!」とか「楽に打てるものを!」といった考えで選び始めると必ずと言っていいほど最終候補に残る高品質なキーボードです。「価格.com」の満足度ランキングでも上位に入りますし、ほぼ全ての機種が高評価となっている珍しいブランドです。

REALFORCE A(R2A-JP4-BK)

このキーボードの特徴は何と言っても独自開発の静電容量方式にあります。驚異的な耐久性、小気味の良いキータッチは言葉にできないほどの気持ち良さです。実は同じく高級キーボードとして人気のPFUの「Happy Hacking Keyboard」(以下、HHKB)シリーズも、静電容量方式を採用した製品は東プレが作っています。

キーボード(REALFORCE) | 電子機器関連製品 | 製品情報 | 東プレ株式会社
http://www.topre.co.jp/products/elec/keyboards/

Happy Hacking Keyboard | PFU
http://www.pfu.fujitsu.com/hhkeyboard/

町工場からスタートし、自動車メーカーと共に成長

IT界隈では東プレと言えば「高級キーボード」ですが、実のところ東プレの主力事業はキーボードではありません。自動車や冷凍車・空調機器などで使われるプレス部品が主力事業なんです。

東プレの創業は1935年(昭和10年)。80年以上も前に創業した歴史あるメーカーです。設立当時の名称は「東京プレス工業」で、その名の通りプレス加工を生業としていたようです。下町の小さな町工場といった趣の企業から始まっています。ちなみに、プレス加工とは、金型を使って金属を切断したり、穴を開けたり、塑性域まで曲げて目的の形状にする加工のことです。

東プレが製造する自動車向け製品例(東プレ 会社案内より)
冷凍車の構成について(東プレ 会社案内より)

では、プレス部品を主力とする東プレが一体どのような経緯でキーボードを手掛けるようになったのでしょうか? 東プレで電子機器部 営業部 営業一課の課長を務める斎藤隆志さんからいろいろなお話をお伺いしてきました。また、最後にREALFORCEの新製品に関する情報もありますよ! Windowsユーザーはもちろんとして、Macユーザー、AndroidやiOSのユーザーの皆さんも要チェックです!!

東プレ株式会社 電子機器部 営業部 営業一課 課長 斎藤隆志さん

「自社の技術を活かせる分野」としてキーボード開発に着手

斎藤:まず、自動車や冷凍車、空調機器など様々な分野に進出したのは単純な話で、自分たちが持っているプレスによる塑性加工技術を他の業種でも使えないか? という考えからです。例えば冷凍車のコンテナの場合は、より大きなプレス品で何かないか? と考えたことから始まっています。他の事業も同じく自分達の技術を活かせる分野を探して辿り着いたものです。

キーの構造を説明するためのモデル

――では、キーボードについてはどうなんでしょうか?

斎藤:キーボードの場合も根本的には同じです。弊社の塑性技術を使って小さなものをやってみよう、ということが発端と聞いています。弊社のキーボードには金属製のバネが入っています。下には基板があります。キーを押すことでバネが縮み、静電容量値が変化します。それを読み取ってキーのオンオフ判定を行っています。

――なるほど。

キーの説明モデルを裏面から見た所。クリアプレートの部分は実際には基板ですが、内側に金属のバネがあることが分かると思います。上の写真はキーを押した状態で、下の写真は押していない状態です。プレートにネジ止めされているものはバネを覆うドーム状のラバーです。

斎藤:とはいえ、最初から「キーボードを作ろう!」と考えたわけではありません。この小さなバネを使った静電容量方式のスイッチが始まりでした。

――小さなものを作ってみよう! ということがスタート地点だったことは分かりました。バネも分かります。でも、どういう経緯から静電容量方式のそのスイッチが生まれたんでしょう?

斎藤:すみません、実はその部分についても今や詳しい経緯は分からないんです。スイッチに使う部品から始まり、その流れで静電容量方式のスイッチが生まれ、キーボードに行き着いた、と聞いています。しかし、この話も昔のことなので……。

――残念ですね……。

斎藤:ハッキリしているのは、このスイッチが始まりだということです。当時は今と違って板バネだったみたいですが、基本的な仕組みは今と変わりません。当時のキーボードといえばメカニカルスイッチの製品しかなく、耐久性が低いことが弱点となっていました。そして、金融関係の企業を中心に耐久性に優れるキーボードが求められていたんです。そこに弊社のスイッチを活かせないか、ということでキーボード作りが始まったようです。

――なるほど。銀行といえばATMのテンキーなども御社の製品なんですよね?

斎藤:どうでしょうか? スタートは銀行の窓口業務で使われるキーボードですね。

圧倒的な耐久性に加えて柔軟なカスタマイズ対応から採用が広がる

――静電容量方式のキーボードは耐久性に優れるということですが、具体的にはどれくらい持つんでしょうか?

斎藤:他の方式を使った一般的なキーボードのキーの耐久性能は大体500万回とか1,000万回くらいです。一方、弊社のキーボードでは公称値で5,000万回ほどです。実際には1億回くらい持つと思いますよ(※公称値ではありません)。

――圧倒的な差ですね……。それは静電容量方式ならではの特性なのでしょうか?

斎藤:静電容量方式の場合は無接点ということが大きな利点ですが、他の方式でも耐久性を確保しようと思えばできると思います。ですが、実際の製品開発ではコストも意識しなければなりませんので、そうなると最終的には高耐久性を確保できないのだと思います。

――より安い樹脂に変えたり、とかですね。ちなみに金融関係以外ではどのような業種で使われていたんですか?

斎藤:当時販売がピークだった頃は空港のカウンター端末のキーボードがほとんど弊社の製品だったことがあります。日系のすべての航空会社が弊社のキーボードを使っていたと思います。

――耐久性に優れるというのはそれほど大きな利点だったんですね。

斎藤:耐久性はもちろんですが、採用事例が広がった要因は他にもあると思います。その一つがカスタマイズ対応だと思います。当時は顧客ごとにキーボードの配列が異なっていたんです。ある企業は追加でファンクションキーを4つ欲しいとか、またある企業はエンターキーをもっと大きくして欲しいとか、そうした個別のカスタマイズを弊社は一件一件行っていました。このことも大きいのではないかと思います。

――個別のカスタマイズ対応を他社はやっていなかったんですか?

斎藤:少ない数量で、ほとんどやっていなかったと思います。

――業務用からスタートした御社のキーボードがコンシューマー市場で知られるようになったのはいつ頃なんでしょうか?

斎藤:16年前に発売した「REALFORCE」シリーズからです。Windowsだとどれくらいかな、98の頃くらいですかね。当時は市場にある高級キーボードもメカニカルスイッチ方式でしたが、弊社がより耐久性に優れ、より高い値段の静電容量方式のキーボードを出したんです。すると、「何だこれは!?」と驚かれて、少しずつ認知度が上がり、いつの間にか、より上位の高級ブランドになりました(笑)

――そうなんですね(笑) 高級キーボードを意識して出したわけでもないんですね。ちなみに、コンシューマー向けではターゲット層はあるんですか? 例えばゲーマー向けなど。

斎藤:いえ、特にありません。ただ、オフィスや業務で使われることも想定してキー配列はオーソドックスなものとしています。実際にどのような用途に使うか、というのはユーザーさん任せです。ただ、弊社のキーボードの中にはLEDで光る機種もありますが、それはゲーマーをターゲットにしたモデルです(「REALFORCE RGB」)。

REALFORCE RGB

使う指ごとのカスタマイズ、印字などキーボード品質へのこだわり

――改めて東プレのキーボードの特徴を教えてもらえますか?

斎藤:静電容量方式を採用することによる耐久性、滑らかなキータッチ。また、キーがオンになる位置を変えられる「APC」(Actuation Point Changer)、小指入力キーの負荷を軽くできる変荷重方式、文字が消えにくい昇華印字方式などでしょうか。

REALFORCE A

――高耐久性は、物理的な接点を持たないことによって生まれたものですよね?

斎藤:はい。メカニカルスイッチですと接点があるのでどうしても耐久性に限界がありますが、静電容量方式の場合は無接点なので耐久性に優れます。また、実はこの円錐形のバネには負荷がほとんどありません。

――え? それはどういうことなんでしょうか?

斎藤:このバネは金属製なんですが、キーの負荷はバネの上に被せているドーム状のラバーが担っていて、負荷はそこで発生しています。この負荷は、30gだったり45gだったりと異なり、機種によっても違います。

REALFORCEのキーの基本的構造

――キーによって異なるというのは?

斎藤:小指の力は他の指と比べると小さいですよね? そこで小指で打つキーなど一部のキーの負荷は30gにして、他のキーを45gにしています。もちろん先ほど言ったように機種によります。

――普段私はキーの負荷が何gなのかといったことを意識したことがありませんが、一般的にはどれくらいの負荷が普通なんでしょうか?

斎藤:一般的なキーボードでは50gや60gなどです。弊社の製品の場合は標準的な負荷が45gです。ただ、女性の場合は30gを好まれる方が多いのではないかと思います。

――キーによって負荷が異なるということと、キーがオンになる位置を変えられるAPCという機能は違うんですか?

斎藤:違います。APCは静電容量方式ならではの機能なんです。静電容量値の変化を読み取ってオンオフ判定を行いますが、その基準値を変えることができるようになっています。静電容量値の変化はキーを押し込んだ深さ、位置によりますから、実際にはキーの深さで設定することになります。具体的には1.5mm、2.2mm、3mmから選ぶことができます。ただ、これも機種によります。APC非搭載機種もありますので。

――凄いですね……。

斎藤:より速く入力したいキーは浅い1.5mmにして、誤入力を極力避けたいキーは深い3mmにするなど、ユーザーさんの好み、特性に合わせたカスタマイズができることになります。

――次に印字について教えて頂けますか?

斎藤:キーボードの印字方式には大きく分けて「レーザー印刷」と「シルク印刷」というものがあります。レーザー印刷はレーザーで樹脂を焼きます。焼いた部分は炭化して黒くなりますので、文字の形状に合わせて焼けばいいわけです。シルク印刷は細かく説明すると難しいですが、簡単に言いますとインクを樹脂の上に乗せている方式です。一般的な印刷に近いものと捉えて頂いて構いません。

キーの印字にも特徴があり、基本的には印字が消えることはありません。

――REALFORCEではどのように印字しているんでしょうか?

斎藤:弊社では「昇華印刷」という技術を使っています。入れ墨のようなイメージです。樹脂の特性として、温めると電子構造が膨らみますが、その時に樹脂の上にインクを乗せておきます。するとインクが下に落ちていきます。その後、冷えると固まります。これを応用して樹脂の中にインクを染み込ませているんです。

――なるほど。でも、それでも削っていくと消えるんですよね?

斎藤:もちろん削り続ければいずれは消えますが、人が触るくらいでは消えません。レーザー印刷やタンポ印刷では日常使用の範囲の摩耗でも消えてしまってテカテカした状態になると思いますが、昇華印刷では基本的には消えません。

――なるほど。ところで、REALFORCEにはカラーバリエーションが2つあります。アイボリーとブラック。ブラックモデルも印字が黒ですが、これには何か理由があるんでしょうか? 見た目の格好良さでしょうか? 個人的には字が見えにくい気がします。

斎藤:実は純粋に製造上の理由です。昇華印刷の弱点なのですが、白の色がないんです。だからブラックモデルは苦肉の策で作っているようなものなんです。

――そうなんですね。ちなみにどちらのカラーが人気なんでしょう?

斎藤:断然ブラックです。

――え!? 字が見えにくいのに? 見た目の格好良さなんでしょうか?

斎藤:見た目もあると思いますが、おそらくモニターなどの周辺機器も多くが黒だからではないでしょうか。

――ちなみに斎藤さんはどちらが好みですか?

斎藤:私はアイボリーですね。でも、印字については「俺は見ないでも打てるぞ!」という方もいますしね。結局は好みの問題かなと思います。

――確かにそういう方もいますね。私も見ないでも打てるといえば打てますけど、なんとなく印字が見やすい方が安心です(笑)

斎藤:分かります(笑) ちなみにHHKBさんには印字のまったくない製品もあるんですよ(※英語配列の無刻印モデルがあります)。実は弊社でも同じく無刻印の製品を出したことがありますが、「印字されたキートップが欲しい」という声が多く上がってきて結局ダメだな、となりました。

――そういえば、キートップは外して交換できるんですよね?

斎藤:はい。「キートッププラー」という付属のツールで簡単に外すことができます。キーの裏側に左右から差し入れて引っ張り上げるだけです。

キートップを取り外す「キートッププラー」
このようにキートッププラーをキートップの底面に入れて引っ張り上げるだけで取り外すことができます。

――ところで、REALFORCE RGBのようにキーが光るモデルはどのような考えから誕生したのでしょうか?

斎藤:今後、ゲーム市場が広がると予想して参入しました。お洒落だな、カッコいいな、という理由もありますが(笑)。主にゲーマーをターゲットとしたモデルで、一部の方には「別に光らなくてもいい」とも言われてますが、写真を撮られた時や動画配信の際などにビジュアル的にカッコいいですからね。

REALFORCE | 日本製プレミアムキーボードの最高峰
http://www.realforce.co.jp/

Mac対応やBluetooth搭載など新モデルも開発中

REALFORCEの現行ラインアップはUSBによる有線接続のみでBluetooth対応モデルはありません。また、Windowsでの使用が基本ですが、実はMac用やBluetooth搭載モデルも開発中とのこと。それらのお話も伺っています。

――確認しますが、現行ラインナップは全てUSB接続モデルで、モバイル用のキーボードなどはありませんよね?

斎藤:はい。全ての機種がUSB接続で、今のところはモバイル用の機種はありません。

――Mac用もですよね?

斎藤:はい。ですが、実はMac用のキーボードは近々出す予定です。私自身はずっとWindows PCを使ってきましたが、評価用も兼ねて最近Macも使っています。

――Mac用モデルもUSB接続でしょうか?

斎藤:USB接続です。

――ということはデスクトップでの使用を中心に考えられたモデルということですか?

斎藤:そうです。無線モデルはもう少し後ですね。

――え? 無線モデルというと?

斎藤:Bluetooth搭載モデルも開発中なんです。当初の予定では2018年の春には出したかったのですが、もう少し遅れてしまいそうです。

――Bluetooth搭載モデルとなるとWindows、Macに限らずAndroidやiOSでも使えるということですか?

斎藤:そうなります! 

――Bluetoothモデルはモバイル用途をメインに考えられているんですか?

斎藤:いえ、据え置き用途を中心に想定しています。

――いずれにしても楽しみですね。ところで話を変えますが、マイクロソフトのキーボードには「ハ」の字型の製品や、うねった形状の製品があります。実は私も過去に腱鞘炎になってからWindows PCのキーボードはマイクロソフトのエルゴノミックキーボードに変えたことがありますが、REALFORCEのような静電容量方式のキーボードではそうした曲面形状の製品は出ないのでしょうか?

斎藤:作りたいんです!!!

――おぉ!!

斎藤:ただ、まだ実現できていません。弊社のキーボードには、キーの静電容量値を読み取るための基板が入っていますが、現状ではこの基板を曲げることができません。フレキシブルな素材に電極を印刷した基板を使えば自由な形状のキーボードを作ることができると思いますが、現時点ではまだ実現できていません。でもそれができれば凄いでしょうね。それこそボール型のキーボードだってできるかもしれません。

――ボール型……意外と速く入力できるかも……。

斎藤:(少し考えて)ですね!

――面白そうですね! 今日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました!

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